遺言の無効を主張する場合

 1 遺言が無効となる場合について

   被相続人の遺言が発見されたとき,一定の場合には,その遺言の無効を主張することができます。これは,遺言を残すためには,遺言能力が必要とされており,この遺言能力のない状態で作成された遺言は,無効となるとされているからです。

   逆をいえば,被相続人が遺言を作成したときに遺言能力があれば,内容がどうであれ,形式さえ整っていれば有効となりますので,単に遺言の内容が納得できないからといって,常に主張できるというものではありません。

   では,どのような場合に遺言の無効を主張できるかといいますと,例えば,その遺言作成日のずっと前に,被相続人は,重度の認知症に罹っており,日常生活にも大きな支障をきたしていたのであるから,そのような遺言を残せるような状態にはなかったはずだというような場合です。

   ただし,遺言作成日に認知症を発症していたからといって,必ずしも遺言が無効になるというわけでもありません。

   遺言能力とは,満15歳以上の人に認められる能力のことで,自身の財産や権利・身分関係がどうなっているのかを踏まえたうえで,遺言の内容を理解し,遺言を残した結果,どのような効果が生じるかを理解することができる能力のことを指します。

   ですので,認知症患者であったとしても,遺言当時に,遺言の内容を理解し,それによって生じる効果がわかっているのであれば,遺言能力は認められるので,遺言が無効にはならないのです。

 2 遺言能力の有無はどうやって判断されるのか

   過去の裁判例においても,事例によって様々な事情を考慮して判断されており,一概にはいえないところですが,①認知症や精神疾患の程度の軽重,②遺言の内容それ自体の複雑性,③遺言内容についての動機の有無などを中心に判断されているものと思われます。

   ①は,認知症や精神疾患の程度が重ければ,遺言能力が認められない方向に働く事情となります。逆に症状が軽ければ,遺言能力が認められる方向に働くでしょう。

   ②は,遺言内容が,「全財産をAに相続させる」などのように,複雑でないものであれば,判断能力が低くても,遺言者はそれを理解できるといえますので,遺言能力が認められる方向に働く事情になります。逆に内容が複雑であればあるほど,遺言能力があるというためには,遺言者にはその複雑な内容を理解できるほどの高度の理解力があったといえるだけの事情が要求されます。

   ③は,そのような内容の遺言を残す動機が遺言者にあったかをみて,例えば,その動機がないということであれば,遺言者は内容を理解していなかったのではないか,正常な判断ができない状態で誰かに唆されたのではないかと疑う事情になりますので,遺言能力が認められない方向に働きます。逆に,それだけの動機があるということになれば,遺言者は正常な判断能力をもとに遺言を作成したと考える事情になりますので,遺言能力が認められる方向に働くでしょう。

 3 遺言を無効と認めるに足る証拠について

   2で示したことを踏まえると,①遺言者の認知症や精神疾患の程度が重く,②遺言の内容が複雑で,③遺言者がそのような遺言を残す動機がない場合には,概ね遺言能力が否定され,遺言が無効となる傾向にあるといえます。

   そこで,これを立証するための証拠としては,まず,②については,遺言の内容を見るだけですので,遺言が残っているのが前提である以上,これ以上の証拠はありません。③については,遺言の内容を確認し,比較的多くの財産を取得することとなる人に対して,遺言者がその人を優遇するほどの事情があったかが問題となりますので,事案によって収集すべき証拠の内容が異なります。そこで,遺言の無効を主張する場合において,必ず収集すべき証拠としては,①の遺言者の認知症や精神疾患の程度が重かったことを裏付ける証拠となります。

   例えば,遺言者が認知症だったということであれば,遺言作成当時の病院のカルテを取り寄せるのがよいです。遺言者が認知症の場合,病院において改訂長谷川式簡易知能評価スケール(長谷川式スケール)と呼ばれる検査を受けていることが多いです。長谷川式スケールは,どちらかというと簡易式検査に分類されるものですが,裁判実務では,この検査結果を重視する傾向にあります。長谷川式スケールは,30点満点ですが,点数が一桁程度であれば,重度の認知症と認められます。

   その他の判断資料としては,医師による診断書・鑑定書・意見書等,CT検査・MRI検査等の画像,要介護認定判断のための調査結果,介護施設における介護記録等,本人が当時記載したもの,遺言当時の様子を撮影した動画・録音データなどが,遺言の有効性を争う上で有用な資料となります。

 4 遺言の有効性が争われる場合におけるスケジュールについて

   遺言の有効性が争われる場合,遺言の有効・無効によって大きく相続できる内容が変わることが多いため,基本的に話し合いでの解決は困難です。

   日本の司法制度においては,遺言無効については遺産分割などと同様に調停前置主義が採用されており,まずは調停を申し立てる必要があります。しかし,調停も裁判所を介した話し合いの一種といえますので,ここで合意できることも少ないでしょう。

   話し合いでの解決が模索されるのは,調停を終え,遺言の有効性を争って裁判を起こし,ある程度主張を尽くして,証拠も出し終えた後で,裁判官が遺言の有効性について,ある程度心証を開示するのを待って,初めて和解での話し合いが進むということが多いです。

   ですので,遺言の有効性が争われる場合,ある程度紛争が長期化することを想定する必要があります。

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